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日语翻译文学作品赏析《死屍を食う男》

动漫日语  2014-05-20 10:122540
いろんなことを知らないほうがいい、と思われることがあなた方にもよくあるでしょう。
フト、新聞の「その日の運勢」などに眼がつく。自分が七赤しちせきだか八白はっぱくだかまるっきり知らなければ文句はないが、自分は二黒じこくだと知っていれば、旅行や、金談はいけない、などとあると、構わない、やっつけはするが、どこか心のすみのほうにそいつが、しつっこくくっついている。
「あそこの家の屋根からは、毎晩人魂ひとだまが飛ぶ。見た事があるかい?」
そうなると、子供や臆病おくびょうな男は夜になるとそこを通らない。
このくらいのことはなんでもない。命をとられるほどのことはないから。
だが、見たため、知ったために命を落とす人が多くある。その一つの話を書いてみましょう。

その学校は、昔は藩の学校だった。明治の維新後県立の中学に変わった。その時分には県下に二つしか中学がなかったので、その中学もすばらしく大きい校舎と、兵営のような寄宿舎とを持つほど膨張した。
中学は山の中にあった。運動場は代々木の練兵場ほど広くて、一方は県社○○○神社に続いており、一方は聖徳しょうとく太子の建立こんりゅうにかかるといわれる国分寺こくぶんじに続いていた。そしてまた一方は湖になっていて毎年一人ずつ、その中学の生徒が溺死できしするならわしになっていた。
その湖の岸の北側には屠殺とさつ場があって、南側には墓地があった。
学問は静かにしなけれゃいけない。ことの標本ででもあるように、学校は静寂な境に立っていた。
おまけに、明治が大正に変わろうとする時になると、その中学のある村が、せんを抜いた風呂桶ふろおけの水のように人口が減り始めた。残っている者は旧藩の士族で、いくらかの恩給をもらっている廃吏はいりばかりになった。
なぜかなら、その村は、殿様が追い詰められた時に、逃げ込んで無理にこしらえた山中の一村であったから、なんにも産業というものがなかった。
で、中学の存在によって繁栄を引き止めようとしたが、困ったことには中学がその地方十里以内の地域に一度に七つも創立された。
だいたい今まで中学が少な過ぎたために、県で立てたのが二つ、その当時、衆議院議員選挙の猛烈な競争があったが、一人の立候補が、石炭色の巨万の金を投じて、ほとんどありとあらゆる村に中学を寄付したその数が五つ。
こんなわけで、今まで七人も一つ部屋にいた寄宿生が、一度に二人か三人かに減ってしまった。
その一つの部屋に、高山ふかやというのと、安岡やすおかと呼ばれる卒業期の五年生がいた。
もちろん、部屋の窓の外は松林であった。松のこずえを越して国分寺の五重の塔が、日の光、月の光に見渡された。
人数に比べて部屋の数が多過ぎるので、寄宿舎は階上を自習室にあて、階下を寝室にあててあった。どちらも二十畳ほど敷ける木造西洋風に造ってあって、二人では、少々さびしすぎた。が、高山も安岡も、それを口に出して訴えるのには血気盛んに過ぎた。
それどころではない、高山はできることならば、その部屋に一人でいたかった。もし許すならばその中学の寄宿舎全体に、たった一人でいたかった。
何かしら、人間ぎらいな、人を避け、一人で秘密を味わおうという気振けぶりが高山にあることは、安岡も感じていた。
安岡は淋しかった。なんだか心細かった。がもう一学期半辛抱すれば、華やかな東京に出られるのだからといて独り慰め、鼓舞していた。
十月の末であった。
もう、水の中に入らねばしのげないという日盛りの暑さでもないのに、夕方までグラウンドで練習していた野球部の連中が、泥と汗とを洗い流し、つは元気をも誇るために、例の湖へ出かけて泳いだ。
ところがその中の一人が、うまく水中に潜って見せたが、うまく水上に浮かび上がらなかった。あまり水裡すいりの時間が長いので、賞賛の声、羨望せんぼうの声が、恐怖の叫びに変わった。
ついに野球のセコチャンが一人溺死できしした。
湖は、底もなく澄みわたった空を映して、魔の色をますます濃くした。
屠牛とぎゅう所の生き血のたたりがあの湖にはあるのだろう」
一週間ぐらいは、そのうわさで持ち切っていた。
セコチャンは、自分をのみ殺した湖の、蒼黒あおぐろい湖面を見下ろす墓地に、永劫えいごうに眠った。白い旗が、ヒラヒラと、彼の生前を思わせる応援旗のようにはためいた。
安岡は、そのことがあってのちますますさびしさを感ずるようになった。部屋が広すぎた。松が忍び足のように鳴った。国分寺の鐘がいんにこもって聞こえてくるようになった。
こういったふうな状態は、彼をやや神経衰弱に陥れ、睡眠を妨げる結果に導いた。
彼とベッドを並べて寝る高山は、その問題についてはいつも口をかんしていた。彼にはまるで興味がないように見えた。
どちらかといえば、高山のほうがこんな無気味な淋しい状態からは、先に神経衰弱にかかるのが至当であるはずだった。
色の青白い、せた、胸の薄い、頭の大きいのと反比例に首筋の小さい、ヒョロヒョロした高山であった。そのうえ、なんらの事件のない時でさえ彼は、考え込んでばかりいて、影の薄い印象を人に与えていた。だが、彼はベッドに入ると直ぐに眠った。小さないびきさえかいて。
安岡は、ふだん臆病おくびょうそうに見える高山が、グウグウ眠るのに腹を立てながら、十一時にもなれば眠りに陥ることができた。
セコチャンが溺死して、一週間目の晩であった。安岡はガサガサと寝返りを三時間も打ち続けたあげく、眠りかけていた。が、まだ完全には眠ってしまわないで、夢の初めか、うつつの終わりかの幻を見ていると、フト彼の顔の辺りに何かを感じた。彼の鋭くとがった神経は針でも通されたように、彼を冷たい沼の水のような現実に立ち返らせた。が、彼は盗棒どろぼうに忍び込まれた娘のように、本能的に息を殺しただけであった。
やがて、電燈のスイッチがパチッと鳴ると同時に部屋が明るくなった。高山が寝台から下りてスリッパを履いて、便所に行くらしく出て行った。
安岡の眼はえた。彼は、何を自分の顔の辺りに感じたかを考え始めた。
――人の息だった。体温だった。だが、この部屋には高山と自分とだけしかいない。高山がおれの寝息をうかがうわけがない。万一、高山がうかがったにしたところで、もしそうなら電燈のついた時彼が寝台の上にいるはずがない。そしてあんなに大っぴらに、スリッパをバタバタさせて出てゆくはずがない。第一、なんのために高山がおれの寝息なんぞうかがう必要があるのだ!おれは神経衰弱をやっているんだ。幻だ。夢だ。錯覚なんだ!――
こう思って彼は自分自身を納得させて、再び眠りに入ろうと努めた。
高山はすぐに帰ってきて、電燈を消した。そしてベッドに入ると、間もなくかすかないびきさえ立て始めた。
安岡は自分の頭が変になっていることを感じて、眼をつむって、息を大きくして、頭の中で数を数え始めた。
一、二、三、四、
五十一、五十二、
四百、四百一、四百二、
千二百十、千二百十一、千二百十二、
彼のやや沈静した頭が、千二百十二を数え終わった時、再び彼は顔の辺りに、人間の体温を感じた。が、彼はこんどはいきなり冷水をぶっかけられたように、ゾッとしはしたが千二百十三、千二百十四と、数珠じゅずをつまぐるように数え続けた。そして身動き一つ、睫毛まつげ一本動かさないで眠りをよそおった。
電燈がパッと、彼のまぶたを明るく温めた。
再び彼の体を戦慄せんりつがかけ抜け、頭髪に痛さをさえ感じた。
電燈がパッと消えた。
高山が静かにドアを開けて出て行った。
――やつは恋人でもできたのだろうか?――
安岡は考えた。けれども高山は決して女のことなど考えたり、まして恋などするほど成熟しているようには見えなかった。むしろ彼は発育の不特别な、病身で内気で、たとい女のほうから言い寄られたにしても、嫌悪けんおの感をいだくくらいな少年であった。器械体操では、金棒かなぼう尻上しりあがりもできないし、木馬はその半分のところまでも届かないほどの弱々しさであった。
安岡は、次から次へと高山のことについて考えたが、どうしても、彼が恋人を持っているとは考えられなかった。それなら……盗癖でもあるのだろうか?
だが、高山は級友中でも有数の資産家の息子であった。それにしても盗癖は違う。いくら不自由をしない家の子でも、盗癖ばかりは不可抗的なものだ。だが、盗癖ならばまず彼がその難をこうむるべき手近にいた。つ近来、学校中で盗難事件はさらになかった。
下痢かなんかだろう。
安岡はそう思って、眠りを求めたが眠りは高山が連れて出でもしたように、その部屋の空気から消えてしまった。
おそらく、二時間、あるいは三時間もたってから高山は、すき間から忍び入る風のように、ドアを開けて帰ってきた。
部屋へ入ると、高山はワザと足音を高くして、電燈のスイッチをひねった。それから寝台へもぐり込む前に電燈を消した。
安岡は研ぎ出された白刃はくじんのような神経で、高山が何か正体をつかむことはできないが、凄惨せいさんな空気をまとって帰ったことを感じた。
――決闘をするような男じゃ、絶対にないのだが。――
安岡は、そんな下らないことに頭を疲らすことが、どんなに明日の課業に影響するかを思って、再び、一二三四と数え始めた。が、彼が眠りについたのは、起きなければならない一時間前であった。
その次の夜であった。
安岡は前夜の睡眠不足でひどく疲れていたので、自習をいいかげんに切り上げて早く床に入った。そして、妙な素振りをする高山の来る前に眠っちまおうと決心した。
「でなけりゃ、とてもやり切れない」
と思った。だが、そう思えば思うほど、なおさら寝つかれなかった。部屋が、そして寄宿舎全体がさびし過ぎた。おまけに、なんだか底の知れない泥沼に踏み込みでもしたように、高山の挙動が疑われ出した。
高山はカッキリ、就寝ラッパ――その中学は一切をラッパでやった――が鳴ると同時にコツコツと、二階から下りてきた。
安岡は全く眠ったふうを装った。が、眠れもしないのに眠ったふうを装うことは、全く苦しいことであった。だが、何かしら彼の心の底で好奇心に似た気持ちが、彼にその困難を堪えしめた。
高山は、昨夜と同じく何事もないように、ベッドに入ると五分もたたないうちに、軽いいびきをかき始めた。
「今夜はもう出ないのかしら」と、安岡は失望に似た安堵あんどを感じて、ウトウトした。
と、また、昨夜と同じ人間の体温をほおの辺りに感じた。
「確かに寝息をうかがってるんだ!」
だが、彼は今までどおりと同じ調子の寝息を、特别な努力のもとに続けた。
パッと電燈がついた。そのまま高山のスリッパがパタパタとドアのほうに動いた。が、高山はドアの前でそれを開くと、そのまま振り返って、安岡のほうをジーッとみつめた。その顔の表情はなんともいえないすごいものであった。死を決した顔!か、死を宣告された顔!であった。
彼は安岡が依然のままの寝息で眠りこけているのを見すますと、こんどは風のように帰ってきて、スイッチをひねらないで電球をねじってあかりを消した。
そうして開けたドアから風のように出て行った。
安岡はそれを感じた。すぐに彼は静かに上半身を起こして耳を澄ました。
木の葉をわたる微風のような高山の気配が廊下に感じられた。彼はやはり静かに立ち上がると高山の跡をつけた。
廊下に片っ方の眼だけ出すと、高山が便所のほうへ足音もなく駆けてゆく後ろ姿が見えた。
「ハテナ。やっぱり下痢かな」
と思ううちに、果たして高山は便所に入った。が安岡は作りつけられたように、片っ方の眼だけで便所の入り口を見張り続けた。
高山は便所に入ると、ドアを五ばかり閉め残して、そのすき間から薄暗い電燈に照らし出された、ガランとしたほこりだらけの長い廊下をのぞいていた。
「やっぱり便所だったのか。それにしてはなんだって人の寝息なんぞうかがいやがるんだろう。妙なやつだ」
と、安岡が五分間ばかり見張りにしびれを切らして、ベッドのほうへ帰ろうとする瞬間、便所のドアが少しずつ動くのを見た。ドアは全く音もなく、少しずつ開き始めた。
高山の姿はドアがほとんど八目どころまで開いたのに見えなかった。まるでドアが独りでに開いたようだった。安岡はゾッとした。
と、高山の姿が風のように廊下に飛び出して、やにわに廊下の窓から校庭に跳び出した。
安岡の体を戦慄せんりつがかけ抜けた。が次の瞬間には、まるで高山の身軽さが伝染しでもしたように、風のように高山の後を追った。
高山は、寄宿舎に属する松林の間を、忍術使いででもあるように、フワフワとしかも早く飛んでいた。
やがて、代々木の練兵場ほども広いグラウンドに出た。
これには安岡は困った。グラウンドには眼をさえぎる何物もない。曇っていて今にも降り出しそうな空ではあったが、その厚い空の底には月があった。グラウンドを追っかければ、発見されるのは決まりきったことであった。
が、風のように早い高山を見失わないためには、腹這はらばってなぞ行けなかった。で、彼はとっさの間に、グラウンドに沿うて木柵もくさくによって仕切られている街道まで腹這いになって進んだ。
街道に出ると、彼は木柵をたてにして、グラウンドの灰色の景象をながめた。その時にはもう高山の姿は見えなかった。彼は茫然ぼうぜんとして立ちつくした。なぜかならいくら風のように速い高山であっても、神通力じんつうりきを持っていないかぎり、そんなに早くグラウンドを通り抜け得るはずがなかったから。
「奴も腹這いになって、障害物のない所で見張ってやがるんだな」
安岡は、自分自身にさえ気取けどられないように、木柵に沿うて、グラウンドのちり一本さえ、その薄闇うすやみの中に見失うまいとするようにして進んだ。
やや柵の曲がった辺へ来ると、グラウンドではなく、街道を風のように飛んでゆく姿が見えた。
その風の姿は、一週間前、セコチャンが溺死できしした沼のほうへと飛んだ。
安岡は、自分が溺死しかけてでもいるような恐怖にとらわれ、戦慄せんりつを覚えた。が、次の瞬間には無我夢中になって、フッ飛んだ。
道は沼に沿うて、へびのように陰鬱いんうつにうねっていた。その道の上を、生きた人魂ひとだまのように二人は飛んでいた。
沼の表は、曇った空を映して腐屍ふしの皮膚のように、重苦しく無気味に映って見えた。
やがて道は墓地の辺にまで、二人の姿を吹くように導いた。
墓地の入り口まで先頭の人影が来ると、吹き消したように消えてしまった。安岡は同時に路面へ倒れた。
墓地の松林の間には、白い旗や提灯ちょうちんが、巻かれもしないでブラッと下がっていた。新しいのや中古ちゅうぶる卒塔婆そとうばなどが、長い病人の臨終を思わせるようにせた形相ぎょうそうで、立ち並んでいた。松の茂った葉と葉との間から、曇った空が人魂のように丸い空間をのぞかせていた。
安岡は這うようにして進んだ。彼の眼をもしその時だれかが見たなら、その人はきっと飛び上がって叫んだであろう。それほど彼は熱に浮かされたような、いわば潜水服の頭についているのと同じ眼をしていた。
そして、その眼は恐るべき情况を見た。
それは筆紙に表わし得ない種類のものであった。
高山は、一週間前に溺死できししたセコチャンの新仏の廓内かくないにいた!
彼のどこにそんな力があったのであろう。野球のチャンが二人でようやく載っけることができた、仮の墓石を、高山のヒョロヒョロな手が軽々と持ち上げた。
その石をそばへ取りけると、彼は垣根かきねの生け垣の間から、くわのこぎりとを取り出した。
鍬は音を立てないように、しかしめまぐるしく、まだ固まり切らない墓土をね返した。
安岡のくうな眼はこれを見ていた。彼はいつの間にか陸から切り離された、流氷の上にいるように感じた。
高山は何をするのだろう?そんなにセコチャンと親密ではなかった。同性愛などとは思いもよらない仲であった。ほとんど一度も口さえ利いたことはなかった!
軟らかい墓土はそばに高く撥ねられた。そしてひつぎの上はだんだん低くなった。高山の腰から下は土の陰に隠れた。
キー、キー、バリッ、とくぎの抜ける音がした。鍬で、棺のふたをこじ開けたらしかった。
高山の姿は、穴の中にかがみ込んで見えなかった。
が、鋸が、確かに骨を引いている響きが、何一つ物音のない、かすかな息の響きさえ聞こえそうな寂寥せきりょうを、鈍くつんざいていた。
安岡は、耳だけになっていた。
プツッ!と、鋸の刃が何か柔らかいものにぶっつかる音がした。腐屍ふしにおいが、安岡の鼻を鋭くいた。
生け垣の外から、腹這はらばいになって目を凝らしている安岡の前に、おもむろに高山が背を伸ばした。
彼は屍骸しがいの腕を持っていた。そして周りを見回した。ちょうど犬がするように少しあごを持ち上げて、高鼻をいだ。
名状しがたい表情が彼の顔を横切った。とまるで、恋人の腕にキッスでもするように、しかばねの腕へ口を持って行った。
彼は、うまそうにそれを食い始めた。
もし安岡が立っているか、うずくまっているかしたら彼は倒れたに違いなかった。が、幸いにして彼は腹這っていたから、それ以上に倒れることはなかった。
が、彼は叫ぶまいとして、いきなり地面に口を押しつけた。土にはまるでそれが腐屍ふしででもあるように、臭気があるように感じた。彼はどうして、寄宿舎に帰ったか自分でも知らなかった。

彼は、口からほおへかけて泥だらけになって昏々こんこんと死のように眠った。
朝、高山は静かに安岡の起きるのを待っていた。
安岡は十一時ごろになって死のような眠りからよみがえった。
不思議なことには高山も、まだ寝室にいた。
安岡が眼を覚ましたことを見ると、
「君の欠席届は僕が出しておいたよ。安岡君」と、高山が言った。
「ありがと」安岡はしまいまで言えなかった。
「きみは、昨夜、何か見なかったかい?」と、高山が聞いた。
「いいや。何も見なかった」安岡の語尾は消えた。
「きみの口の周りは、まるで死屍しかばねでも食ったように、泥だらけだよ。洗ったらいいだろう。どうしたんだね」
高山が、静かに言った。
が、その顔には、鬼気があふれていた。

それっきり、安岡は病気になってしまった。その五、六日後から修学旅行であった。
高山は修学旅行に、安岡は故郷に病を養いに帰った。
安岡は故郷のあらゆる医師の立ち会い診断でも病名が判然しなかった。臨終の枕頭ちんとうの親友に彼は言った。
「僕の病源は僕だけが知っている」
こう言って、切れ切れな言葉で彼はしかばねを食うのを見た一じょうを物語った。そして忌まわしい世に別れを告げてしまった。
その同じ時刻に、安岡が最期の息を吐き出す時に、旅行先で高山が行方不明になった。
数日後、高山の屍骸しがいなぎさに打ち上げられていた。その死体は、大理石のように半透明であった。

 

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