間もなく海石の両親が亡くなり、海石はその遺骨を奉じて蒲台の故郷へ帰ったので、二人の間の
滄客の家は頗る
ある日、つくねんと坐って悲しんでいると、不意に門番がきて、海石が来たといって知らした。滄客は喜んで急いで戸口へ往って迎えてきた。二人はそこで寒いあついの挨拶をしようとした。ところで海石は驚いて言った。
「君は一家族が全滅するが、知らないかね」
滄客はびっくりしたが、海石がどうしてそんなことを言うのかその理由が解らなかった。海石は言った。
「久しく逢わなかったが、君はこの頃、どうもしあわせが悪いようだね」
滄客は泣きながら家の不幸を話した。海石もすすり泣きをしたが、やがて笑って言った。
「しかし、もう僕が来たから大丈夫だ、安心したまえ」
滄客は言った。
「久しく逢わないうちに、医者の修業をしたかね」
海石は言った。
「医者のことは知らない、家相と方位を見ることを、すこし習ったばかりだよ」
滄客は喜んで、そこで家相を見てくれと言った。海石は中へ入って残らず家の内外を観まわったが、そのあとで家族の者を見たいと言いだした。滄客は海石の言うとおり、児、□、婢、妾、家族全体を座敷へ集めて、それに一いち指をさして教えた。滄客の指が妾の倪に往ったところで、海石は仰向いて大声に笑いだしたが暫くその笑声がやまなかった。一座の者は何事だろうと思って不思議がった。と見ると、倪がわなわなと慄えだして顔の色がなくなったが、にわかにその体が
「此処を出て往きますから、どうか抜かないでください」
と言った。海石は怒って、
「
と言って、その白髪を抜いた。白髪を抜くと同時に女は毛の黒い貍のような獣になった。一座の者はひどく駭いた。海石はその獣をつかまえて袖の中に
「あなたはひどく毒を受けていらっしゃる、背にかわったことがあるでしょう、見ましょう」
□は羞かしがってどうしても肩ぬぎにならなかった。それを次男が
「この毛はもう古くなっているから七日おくれたなら、助からないところでした」
また次男の背を見た。その背にも二寸ばかりの白い毛が生えていた。海石は言った。
「これは、一月あまりすると死ぬところだった」
滄客はそこで婢や僕の背も調べてもらった。海石が言った。
「
滄客は海石の袖の中に納れた獣のことを訊いた。
「それは何だね」
海石は言った。
「狐の類だよ、人の神気を吸うて、不思議なことをする奴なんだから、人の死ぬのを喜ぶのだよ」
滄客が言った。
「久しく逢わなかった間に、君は不思議なことをやりだしたが、君は仙人になったのじゃないかね」
海石は笑って言った。
「師匠について小技を習ったまでだ、仙人じゃないよ」
滄客はその師匠のことを訊いた。海石は言った。
「
海石はそこで帰ろうとして別れの挨拶をしたところで、袖の中が空になっているのに気がついた。海石は駭いた。
「しまった。しっぽの
一座の者は駭いた。海石は言った。
「首の毛を皆抜いてあるから、人に化けることはできない、ただ獣には化けられる、化けても遠くへは往っていないだろう」
そこで室の中に入って往って飼ってある猫を見、門を出て往って犬をけしかけたが、それには異状がなかった。
「此処にいる」
滄客は其処に往ってみた。圏の中には豕が一疋多くなっていた。豕は海石の笑声を聞くと、とうとう寝て動かなかった。海石はその耳をつかまえて出た。しっぽに一本の針のような
「汝はたくさん悪いことをしながら、まだ一本の毛を惜しがるのか」
海石はしっかと豕をつかまえてその毛を抜いた。と、豕はそのまま貍になった。海石はそれを袖に納れて出て往こうとした。滄客が無理に留めたので飯を
「この次は、
「どうも予定することができない、僕の師匠は、大きな願いを立てて、僕等を海上へ
滄客は海石と別れた後になって、山石道人の名を静かに考えてから、はじめて悟って言った。
「海石は仙人だ」
それは山と石の字を合わすと岩の字になるが、それは呂仙の
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